大阪高等裁判所 昭和25年(ネ)68号・昭25年(ネ)350号 判決
控訴費用は昭和二十五年(ネ)第六八号事件については控訴人浅田清一の同年(ネ)第三五〇号事件については控訴人宗行竹治の各負担とする。
二、事 実
控訴人浅田清一は昭和二十五年(ネ)第六八号事件について、「原判決を取消す、神戸地方裁判所姫路支部昭和二十三年(ヨ)第一号山林立木伐採讓渡等禁止仮処分申請事件について、昭和二十三年一月八日同裁判所がした仮処分決定は同控訴人において相当の保証を立てることを條件としてこれを取消す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言」を求め、控訴人宗行竹治は昭和二十五年(ネ)第三五〇号事件について、「原判決を取消す被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決」を求め、それぞれ右相手方の申立に対して控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は控訴人浅田清一において、本件仮処分決定の保証金が金五万円であるのに対して仮処分取消判決のそれが金八十万円であるのは、甚しく不当であるといわねばならぬ。仮処分の許可、仮処分の取消はいずれも一應の疏明によつてなされるものであるから、双方保証金の点についても同一に扱うのが妥当である。これを他の例に比するも即ち(イ)仮差押決定の保証金、(ロ)給付を命ずる判決の仮執行宣言の保証金、(ハ)請求に関する異議訴訟における執行停止の保証金、(ニ)給付を命ずる仮執行宣言付判決に対する控訴申立による仮執行停止の保証金、(ホ)強制執行による第三者異議訴訟における執行停止の保証金等が何れも債権額又は差押物件の價額の三分の一程度で足るものとするは殆んど裁判例というべく、右はいずれもその主張が確定的でないのによるものであるから、仮処分取消の場合も仮処分物件の價格の二分の一又は三分の一とするが相当である。もとより仮処分取消を許す場合の保証金は裁判所の自由に決し得るところであるがそれにも自ら制限の存するものであつて、この限度を超える場合は不法なものというべきである。若し本件の場合の如く、仮処分取消の場合に仮処分物件の價格と同額の保証金を立てしめるときは仮処分取消申請人においてその保証金を立てることは資力の点において不可能となり、仮処分取消を許さないと等しい結果となるの不合理に陥る。なお、相手方の本件仮処分申請は不当であつて本訴は未だ繋爭中なりとはいえ理由のないことは明かと信ずるから、これ等の事情も仮処分取消の保証金を決定する上に参酌して相当減額さるべきものであるから控訴に及んだと主張する外原判決摘示の事実と同一であるから、こゝにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
先ず控訴人浅田清一の控訴の適否について、案ずるに、同控訴人は相手方より申請した本件仮処分決定に対していわゆる特別事情による取消の申立をなし、原審は、金八十万円の保証を立てることを條件として、右仮処分決定を取消す旨の判決をしたものであることは本件記録によつて明白である。そして右の場合の保証金額は裁判所が職権を以て定めるものではあるが、その額が多きに失するとするときは、仮処分取消の申立人において、控訴によつて不服を申立て得べきものと解するのが相当であるから、同控訴人の本件控訴は適法なりと認める。
よつて次いで本案について審究するに本件は控訴人宗行竹治において、その所有の山林の一部を除外してその余の部分を訴外熊谷栄之助に同人は訴外池内勝敏に同人は控訴人浅田清一に賣渡したところ、控訴人浅田清一は右一部除外の事実を認めず右山林全部について所有権を取得したものなりとして右除外地域の立木の伐採に着手したのは不当であるとし右立木に対する自己の所有権保全の目的で原審に仮処分の申請をした結果原審は昭和二十三年一月八日右除外地域に生育している立木の伐採讓渡等の処分行爲を禁止する趣旨の仮処分決定をなしたものであることは又本件記録によつて明かであつて、要するに控訴人宗行竹治は自己の山林における立木の所有権保全を目的として、その立木の伐採讓渡等の処分禁止の仮処分決定を得たのである。
そして民事訴訟法第七百五十九條にいわゆる特別の事情とは、保全せらるべき権利の内容が金銭的補償を得るによつてその終局の目的を達することができるような場合を指称し、たゞその保全せんとする権利の侵害による損害額の立証が著しく困難な場合には右のいわゆる特別事情のないものと解するのが相当である(昭和十二年四月二十六日大審院判決参照)。けだし後者のような場合には、仮処分取消の判決において、適当なる保証金額を定めることが殆んど不可能に近く、かゝる場合にも保証を條件として仮処分を取消すことは前示法條の趣旨に副わないからである。
しかして、本件仮処分の目的である立木の所有権は、その性質から見ても金銭的補償を以てその終局の目的を達し得べきものであり且つその侵害による損害を算定するに困難なりというを得ないのみならず原審証人森半次郎の証言によると、その價格は約八十万円であることが認め得るから、前に説明した特別の事情ある場合にあたるものというべきであるから、金八十万円の保証を立てることを條件に原審が本件仮処分申請事件につき昭和二十三年一月八日した仮処分決定を取消すべきものとする。
控訴人浅田清一は原決定の保証金額が不相当なりと非難するから、この点を考えて見るに仮処分取消判決における保証金は、仮処分の目的物に代るべきものであつて、仮処分を取消すことによつて、仮処分債権者の被るべき損害の担保と見るべきではない(昭和七年七月二十六日大審院決定参照)。だから、原則として仮処分の目的物の價格を標準としてこれを定むべきは当然であり、しかも本件仮処分の目的物たる立木の價格が約八十万円であることは前示認定の如くであるから、(本件においてこの認定を動かすに足る疏明資材はない)原審がその仮処分取消判決における保証金を諸般の事情を参酌の上金八十万円としたのは必ずしも不当ということができない。この点に関する同控訴人の主張はすべて、右保証金の性質を正解しないことに帰因するもので採用に値しない。
以上説示したように、原判決は正当であるから、本件各控訴はいずれも理由のないものとして民事訴訟法第三百八十四條によりこれを棄却し、訴訟費用については同法第九十五條第八十九條に從い、主文のとおり判決する。
(裁判官 大野美稻 松本左右一 福本一)